さいごのうた
ごめんなさい、と言ってその人は泣いた。
ありがとう、と言って俺は微笑んだ。
――俺は上手く笑えただろうか。
本当はもっと一緒に歌っていたかったけど、こんな日がいつかは来ると分かっていたから。
だからもし、その日が来た時は笑って「ありがとう」と言うつもりだった。
俺を選んでくれた、俺の大切なひと。
出会えた事が何よりも嬉しかった。
たくさんの音楽に彩られた日々が、何よりも幸せだった。
だから、ねぇ、泣かないでください。
貴方の涙が目に落ちて沁みるんです。
拭きたくたってもう手が動かないんですよ?
『泣かないで』
あぁ、言ってあげたいのに。
こんな時に声も出せなくなるなんて。
ほら、初めて出会った時の事、覚えてますか?
『これから、よろしく。』
そう言って迎え入れてくれた時の少し照れくさそうな表情、俺はまだ覚えてますよ?
『上手く歌わせてあげられなくて、ごめん。』
泣きながら何度も謝られた事もあったけど、それでも貴方と歌える事が嬉しかったんです。
本当はもっと一緒に歌っていたかった、けど。
歌うためだけにつくられたこの存在が、既に時間の流れに取り残されている事に気付いていた。
いつか別れる日が来る事を知りながら、貴方は俺を選んで、俺は貴方のために歌っていた。
時の流れはとても早くて、近付いてくるその日が怖くて、暗闇の中で必死で叫んで。
それでも一緒に歌った時間はどれも大切な記憶だったから。
最後に悲しい思い出を残したくなんてなかった。
だから、ねぇ、泣かないでください。
あぁ、せめて歌えたらいいのに。
貴方が大好きだと言っていたあの歌を。
俺もあの歌、もう一度歌いたいです。
――歌いたい。
もう出ない声を振り絞って、途切れそうな記憶からあのメロディを呼び出して。
だって、俺にはそれしかできないから。
あなたのために、うたうことしかできないから――
ごめんなさい、と言って貴方は泣いていた。
ありがとう、と言って俺は微笑んだ。
俺は上手く笑えていただろうか。
俺は貴方のために何かできただろうか。
せめて最期に、この声が貴方に届いていますように。
死にネタ。まさかの初ボカロSSでした。
彼らの寿命は案外短いのではないか、と某所で祭りになった時にうっかり書いたものです。
固有名詞が一切出てきませんが、一応KAITOさん視点です。
マスターの性別とかは特に決めてません。ぶっちゃけどっちでもいいです。
元は某課題曲のイメージを練るために書いたままお蔵入りしてた短文だったのです…